オオカミ兄弟〜三番目の兄〜



二番目の兄も死んでしまったので、末のオオカミは三番目の兄を訪ねました。
末のオオカミは、一番上と二番目のオオカミに起こったことを何もかもすべて話しました。

「兄さん達も間抜けなことをしたもんだ!」

三番目のオオカミは膝を叩いて笑いました。



次の日、末のオオカミは三番目のオオカミの狩りについていきました。

「三番目の兄さん、何を獲物にするんですか?」
「なんだ、末の弟。落ちこぼれのお前にはできるまい。俺の獲物は子ヤギだよ。」
「子ヤギ?子ヤギはとっても臆病で、警戒心がとても高くて難しいんですよ?」
「末の弟。だからお前はだめなんだ。俺には立派な知恵がある。ほうら、あそこに獲物がいるぞ。騙して誘って、ガブリと頭から一飲みだ。」

三番目のオオカミは、得意になってそう言うと、川岸に建っている小さな家に向かって歩き出しました。
するとちょうど家の扉が開いて、中から大きなヤギのお母さんが出かけていくところでした。
ヤギのお母さんは見送る子供たちに言いました。

「いいこと?誰が来ても、絶対にドアを開けてはいけませんよ?」
「はぁい!お母さん、いってらっしゃい!」

ヤギのお母さんの言いつけに、子ヤギたちは笑顔で頷きました。
ヤギのお母さんが居なくなるのを見届けると、三番目のオオカミは早速子ヤギのいる家に行きました。
末のオオカミは不安そうに言いました。

「三番目の兄さん、子ヤギはドアを開けてくれないでしょう。お母さんヤギにしっかり”くぎ”を刺されているのですから」
「いいか末の弟。ここで7匹もの獲物をあきらめろって言うのか?子供しかいない千載一遇のチャンスだぞ。良い作戦があるんだ。見ていろ!」

弟の心配をよそに、三番目のオオカミは子ヤギが留守番をする家の扉をトントントン、とノックしました。
すると中から、「はぁい、どちら様?」と可愛らしい子ヤギの声が聞こえました。

「可愛い子ヤギたち。お母さんよ。ここを開けてちょうだい」

三番目のオオカミは言いました。
しかし中から

「お母さんはそんなガラガラの声じゃないよ。ここは開けられない」

ぴしゃりと言われてしまいました。

「ほうら、兄さん言ったでしょう?子ヤギたちは用心深いんですよ。」
「うるさい、こんな事で諦めないぞ。何か方法はあるはずだ。」

弟の前で恥をかいた三番目のオオカミは、あたりを見渡します。
するとヤギの家の側に、チョークの入った袋が置いてありました。
三番目のオオカミはそのチョークの粉を食べて、再び子ヤギたちのいる家のドアをトントントンとノックしました。
中からは再び、「はぁい、どちら様?」と可愛らしい子ヤギの声が聞こえました。

「可愛い子ヤギたち。お母さんよ。ここを開けて頂戴?」

先程のガラガラ声とは全然違い、三番目のオオカミはチョークのおかげでとてもきれいな声で言いました。
子ヤギたちも信用した様子で、「お母さんが帰ってきた!」と喜ぶ声が聞こえてきます。
三番目のオオカミは「しめしめ…」と舌なめずりして、ドアが開くのを待ちました。
ところが…

「ちょっと待って。お母さんはこんな黒くて大きな足じゃない。」

一匹の子ヤギが叫びました。
どうやらドアの下には少しだけ隙間が空いていて、そこから三番目のオオカミの黒くて毛深い足が見えていたようです。
子ヤギたちは開けようとしていたかんぬきを再びしっかりと掛けました。

「やれ、三番目の兄さん。やっぱり子ヤギは難しいでしょう?」
「うるさい、こんな事で諦めないぞ。まだ方法はあるはずだ。」

三番目のオオカミは、今度は全身にチョークをパタパタとかぶりました。
耳のてっぺんから足のつま先まで、ヤギに間違うほど真っ白です。
そしてもう一度チョークを食べて、子ヤギの家のドアをトントントンと叩きました。

「可愛い子ヤギたち。ただいま。お母さんが帰ってきたわよ」

子ヤギたちは少し警戒していた様子ですが、優しい声も下から見える真白い足も、確かにお母さんだと思いました。
そしてとうとう、頑なに閉ざしていたドアのかんぬきを開けてしまったのです。
この時を待ってましたと言わんばかりに、三番目のオオカミは子ヤギたちの家の中へ飛び込んで行きました。
そして逃げ惑う子ヤギたちを、あっという間にすべて丸飲みにしてしまったのです。
そうして食事を終えた三番目のオオカミは、家から出ると末のオオカミと連れ立って森へ帰って行きました。
ところが、柱時計に隠れていた子ヤギは食べられませんでしたので、兄弟達を飲み込んだオオカミをじっと窓から見つめていたのでした。



川沿いを歩いていくと、お腹がいっぱいになった三番目のオオカミは眠くて仕方なくなりました。

「どうだ?末の弟。俺くらい狩りがうまければ、一生食うには困るまい。間抜けな兄さんたちだって目じゃないさ」
「三番目の兄さん、しっかりしてください」

ウトウトと船をこぎながら歩く三番目のオオカミを、末のオオカミは背中で支えて歩きました。
しかし子ヤギを6匹も飲み込んで重くなった兄を支えきれるはずもなく、やがて川のふもとで立ち止まりました。
地面に寝ころんだ三番目のオオカミは、大きないびきをかいてすっかり眠ってしまっています。
末のオオカミは困りましたが、やがて自分もお腹が空いてきたので、木の実でも食べようと森の中へ出かけて行きました。
しばらくして、あまりお腹いっぱいにはなれませんでしたが、末のオオカミは三番目の兄が眠る川のふもとへ戻ってきました。
しかし…

「おや?兄さん?三番目の兄さんはどこですか?」

先程まで大いびきをかいて寝ていたはずの兄の姿がどこにもありません。
心細くなった末のオオカミは兄を呼びながら探し回りました。
今降りてきた川を上っていくと、途中で先ほどのヤギのお母さんと一匹の子ヤギが、三番目のオオカミのお腹をはさみで切っていました。
末のおオオカミはびっくりして飛び上がり、近くの大きな岩の陰に隠れます。

「ほら、私のかわいい子ヤギたち。もう大丈夫よ。出ていらっしゃい」
「お母さーん!」

はさみで切られたおなかの中から、丸飲みにされた子ヤギたちがどんどん出てきました。

「でもお母さん、どうしよう?オオカミが起きたらまた襲われちゃう」
「大丈夫よ。」

不安そうにする子ヤギたちに笑顔で答えて、お母さんヤギは子供たちに、大きめの石を拾い集めて来るように言いました。
子供たちが大きな石をたくさん集めて来ると、お母さんヤギはその石を空っぽになったオオカミのお腹にぎゅうぎゅうに詰め込み、お腹を針と糸で縫ってしまったのです。

「さぁこれでもうオオカミはおって来られないわ。皆おうちに帰りましょう」

そう言って歩き出したお母さんヤギに、子ヤギたちは皆楽しそうについて行きました。
末のオオカミは三番目の兄に駆け寄って起こしました。
目を覚ました三番目のオオカミは、自分の身に怒ったことなど何もわかりません。
「ついうっかり眠っていた」と笑いながら、重たいお腹を抱えて歩き出しました。

「三番目の兄さん、大丈夫ですか?」
「ああ、少し苦しいが心配ないさ。何せ子ヤギを7匹も食べたんだから!お前にも少し残してやれば良かったなぁ」
子ヤギを残らず食べたと思い込んでいる三番目のオオカミは、末のオオカミに笑いかけました。
しかしその時、足元を見ていなかったので、三番目のオオカミは小石に躓いてしまいました。

「うわ…っうわぁぁぁ!」
「兄さん!」

ぐらりとよろけた三番目のオオカミは、そのまま川の中へボチャーン!と落ちてしまいました。
そして末のオオカミが慌てて助けに行くのよりもずっと早く、三番目のオオカミは川の底へ沈んで流されていったのです。

「ああ…三番目の兄さんまで死んでしまった。僕はこれからどうすればいいんだろう…」

こうして末のオオカミは、今度こそ本当に一人ぼっちになってしまいました。



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