その夜。。

「えぇ、、、アンタこんなに貰ったの?」(すみれ)

食事もすんださくら家のちゃぶ台にまる子は今日貰ったチョコを並べる。
その数にみんな目を真ん丸にして驚いている。


「まぁ、、ほとんどが大野くんが貰ったチョコだけどね?」(まる)
「大野くんの貰ったチョコをなんでアンタが貰うのよ?」(さきこ)
「食べないからってくれたんだ」(まる)
「まぁ、、悪いわねぇ。。いいのかしら?」(すみれ)
「いーじゃねーか、食わねぇって言ってるんだから貰っとけば」(ひろし)
「そうそう。まる子が責任もって食べるから大丈夫だよ」(まる)
「しかし、大野ってのもすげーな、、こんなに貰うなんてよ」(ひろし)
「ほんとじゃのう。ひろしなんてこんなに貰ってきた試しがないよ」(こたけ)
「そうだろうねぇ。お父さんはこんなに貰えないわよね」(さきこ)
「うん。貰えないだろうね」(まる)
「そうねぇ、、」(すみれ)
「うるせーよ」(ひろし)

冗談混じりに父ヒロシをからかう女性陣。
全員がケラケラと笑う中「わしもないよ」と入ってきた祖父友蔵。
「全然、ないよ」と続ける友蔵に
微妙な空気になるのはもはやお約束である。


「でっ、でもさ、見てよ、これ!板チョコ!大野くんに貰ったチョコの1つなんだ」

いつもはのんきなまる子だが、こういうとき誰よりも早く話をかえる。
おしゃべり好きのまる子は、話の引き出しも多いため、こうしたことは得意だった。
さくら家も柔軟に対応していくため、もう話は板チョコにかわっていた。

「あらまっ、板チョコのまま渡した人もいるのかしら」(すみれ)
「それにしても随分適当な人もいるもんだねぇ。。メッセージカードとかついてなかったの?」(さきこ)
「うん。ついてなかったよ」(まる)
「なにがしてぇのかさっぱりわかんねぇな。俺はそんなのはいらねぇな」(ひろし)
「わしはそれでもいいから欲しいのぅ」(ともぞう)

また友蔵の発言により不穏な空気が漂ってきたところで今度は姉さきこが話を取り繕う。


「で、でもさぁっ、どんな子かみたいよね」(さきこ)
「そうだね。案外かわいい子かもよ」(まる)
「なんでそんなことわかるのよ?」(さきこ)
「いやぁ、、これね大野くんが大事そうに持ってたから」(まる)
「あらやだ、じゃあまる子が貰ってよかったのかしら?」(すみれ)
「そうじゃのぅ。もしかしたらそれだけは自分のものにしとくつもりが間違ってまる子に渡してしまったんじゃないのかね?」(こたけ)
「ああ、それは違うよ。だってわざわざ、これだけ届けにきてくれたんだもん。忘れてたって言って」(まる)
「へー、、そうなの?」(さきこ)
「うん。「板チョコも食べるだろ?」って言って、まる子の家の近くまで持ってきてくれたんだ。他のチョコはランドセルに入りそうな小さなものも手で持ってたのに、それだけランドセルの中の小さな巾着に入っててさぁ」(まる)

ぺらぺらと笑いながらその時の様子を話すまる子に
さくら家(まる子と友蔵を除く)はもやもやした気持ちに包まれていた。


「じゃ、じゃあさ、その巾着ごと貰ったんじゃないの?」(さきこ)
「違うよ。だってその巾着袋の柄、大野くんの体操着入れ(の手提げ)と一緒だったもん。だからあれは大野くんのだよ」(まる)


4人はふぅんと答えながら頭の中で整理していく。

わざわざ届けてくれたカードも何もついてない板チョコ。
他のチョコとは別にして自分の巾着袋にいれて保管。
何かひっかかる。
そもそも板チョコのまま好きな子にプレゼントを渡すだろうか。
バレンタインに無知な男の子じゃあるまいし。
それに、巾着の中になんて学校で貰ったというより家から持ってきたといった方が正しいのではないか。
持ってきた?なんで?誰かにあげるため、、、?

そして、はっとする。

ーーーーそれ、大野くんからの逆チョコだったんじゃないの?


「いやぁ、あたしゃあ、こんなにチョコがあって幸せだねぇ。こりゃ、歌いたくなっちゃうね、アハハ」

浮かれながら自分で作ったチョコの唄を歌いだすまる子。
そんな姿を見て、喉まででかかっている言葉を飲み込み、

ーーーーそんなわけないよなと自分自身を納得させたのだった。



「まっ、まる子!?これはお金かね!?」(ともぞう)
そんなことなど気にも止めていない友蔵は丸尾から貰ったチョコを見て驚きだした。
まる子は違うよと笑う。

「おじいちゃん、これは偽物だよ」(まる)
「なにぃっ!偽札かね?まる子、偽札なんてもらっちゃいかん!犯罪じゃぞ!」(ともぞう)

勝手に驚いている友蔵を白い目で見ながらまる子は続ける。

「、、、違うよ。これはチョコの包みだよ。丸尾くんにもらったんだ」(まる)
「でもほんと、お札にみえるのう」(こたけ)
「でしょ?これを配りながら「次の学級委員選挙にも丸尾末男に清き1票を」とか言われても、あたしゃあ清き1票が入れれる気がしないよ」(まる)
「そうだね。普通のチョコ貰った方がまだ清き1票が入れれそうだね」(さきこ)
「、、にしても気のはえーやつだな。次のって4年生の話だろ?まだ一緒のクラスになれるかもわからねーのによ」(ひろし)
「それもそうね」(すみれ)
「丸尾くんは学級委員に命かけてるからねぇ」(まる)

うんうんとみんながお茶を飲みながら納得する。
そのあともまる子は楽しそうに今日の出来事を話していく。
朝、平岡に貰ったチョコボール。帰り道、ヒロシに貰ったキットカット。
家族みんな丁寧に反応しながら時間は過ぎていく。
そして一通り話終わったところで、おまちかねとでもいうようにある箱を机の真ん中に押し出した。


「じゃじゃーん!」(まる子)

おおーという声が居間に響く。
開けた箱の中からチョコレートの上品な薫りが漂う。


「すっごいわね、これ」(さきこ)
「へっへー、、花輪くんに貰ったんだ」(まる)
「はー、、こんな立派なチョコレートケーキ、誕生日やクリスマスですらうちじゃ買えねえよ」(ひろし)
「ほんとねぇ、、いいのかしら」(すみれ)
「いいんだって!これもわざわざ花輪くんが届けに来てくれたんだよ」(まる)
「え?これも届けに来て貰ったの?」(さきこ)
「うん。学校ではみんなと一緒にチョコを貰って〜、帰ってきたら花輪くんの車が家の前にとまっててね、これをくれたんだ」(まる)

ほくほくとケーキを眺めるまる子にまたもや心にもやがかかるさくら家(まる子友蔵を除く)


「な、なんでくれたのかしら?」(すみれ)
「?まる子がチョコ好きなの知ってるからじゃないの?」(まる)
「チョコ好きだからってわざわざ家にまできて渡すか、、?学校でもお前貰ってんだろ?」(ひろし)
「うん。かさばるからじゃないの?それ、おっきいしさ」(まる)

また全員(まる子と友蔵を除く)が同じことを言いたくなる。


ーーーーまる子のこと好きなのか?


「いやぁ、あたしゃあ、今日はほんと幸せだよ、チョッコ♪チョッコ♪」


さきほどの作詞作曲した唄を歌いながら今度は踊りまでつけるまる子。
その姿をみて、


ーーーーそんなわけないよなとまた自分自身を納得させるのだった。


「でも、なにかお礼しなきゃねぇ」(すみれ)
「そうだね。こんなにいいもの貰ったんだから」(さきこ)
「ああ、それなら大丈夫だよ。まる子チョコあげたもん」(まる)
「ほぉー、、それはよかったのう」(ともぞう)
「うん。昨日おじいちゃんから貰ったチョコあげたんだ」(まる)
「Σ(わ、わしからのチョコを、、昨日はあんなに嬉しそうにしておったのに、、大切に食べるからねと言っておったのに、)」(ともぞう)

花輪家の 豪華なケーキ 勝ち目なし
友蔵心の俳句、と読んだところでがっくり心がおれる友蔵。
そして祖母こたけがあれまぁと続ける。

「それって、、じいさんが老人会で貰ったものかい?」(こたけ)
「うん。そだよ」(まる)
「いいのかねぇ。。老人会で貰ったものを花輪くんにあげて」(こたけ)
「そうですねぇ。なんだか申し訳ないわ」(すみれ)
「いーって、いーって、花輪くん喜んでたし」(まる)
「のう、じいさん?中身は饅頭だったと思ったんじゃか、、違ったかね?」(こたけ)
「え、、ああ、そうじゃよ」(ともぞう)

えぇっという声がさくら家の居間に響く。
やっぱりと頭を抱えるこたけと、まる子が好きだと思ったのに、、とぼやく友蔵。
あわあわとまる子が言う。


「おっ、おじいちゃん!?昨日まる子に逆チョコだってくれたじゃん!!」(まる)
「え、、おお、そうじゃ!男子から女子にプレゼントするのが逆チョコなんじゃろ?だからおじいちゃんからの逆チョコは、お饅頭じゃ」(ともぞう)

自信満々に答える友蔵に、もはや誰もツッコミはしない。
がくんと全員の力がぬける。

「トホホ、、、包み紙にもバレンタインってシール貼ってあったのに、」(まる)
「年寄りはチョコより饅頭の方が喜ぶからねぇ。でもせっかくだから、バレンタイン仕様にしてもらったんじゃよ」(こたけ)
「、、バレンタインにお饅頭ってちょっとね」(すみれ)
「うん、、ちょっとね」(さきこ)
「、、いーじゃねーか。べつにチョコだろーが饅頭だろーが。貰ったことにかわりはねーだろ」(ひろし)
「、、、それもそうだね。そういや花輪くん昨日言ってた!チョコにこだわるのは日本だけだって」(まる)
「じゃあいいじゃねーか。グローバルな贈り物ってことだ」(ひろし)

アハハハと笑うひろしは、いい感じにお酒がまわってきたようだ。
まる子と友蔵もつられそうだよねぇと笑う。
残りの女性陣はお饅頭のどこがグローバルなんだろうとあきれていた。


「うん!もう、いいや!」(まる)
「でも、、」(すみれ)
「まぁ、いーんじゃねぇーのか?花輪ってやつはチョコいっぱい貰ってんだろ?1つぐらい饅頭があった方がいいだろ」(ひろし)
「そーだよ。それより早くみんなで食べようよ!ねっ。お母さん切って切って!」(まる)
「、、、もう、仕方ない子ねぇ」(すみれ)

すみれが台所へ立っても、騒がしい食卓。
会話は途切れることなく楽しい時間は過ぎていくのだった。



**

「ねぇ、まる子?」

子供部屋の電気を消し並んでお布団に入る姉妹。
さきこが思い出したかのようにまる子に問いかけた。

「アンタさぁ、なんで花輪くんにチョコ、、いやお饅頭あげたの?」
「え?なんでってくれたから」
「大野くんの方が量的にはくれてるじゃない」
「それは、、花輪くんはうちまで来てくれたから」
「でも大野くんもうちの近くまできてくれたんでしょ?」
「、、そーだけどさ」
「ま、なんでもいーけどね。じゃあ、おやすみ」
「、、おやすみ」

なんで、か。
考えようとすると途端にむず痒くなる。
がばっと布団に潜り込んでまる子は丸くなった。
わからないが顔が熱い。

あたしだって、さ。
と、心の中で呟く。


ーーーーあたしだって、花輪くんの喜ぶ顔がみたかったんだ。

それだけだよ!
そう自分に言い聞かせて目をぎゅっと閉じる。
しかし胸に残るもやもやに悩まされ、なかなか寝付けれないまる子なのであった。














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