あははと困ったように笑う花輪。
そんな彼をたまえは不思議に思う。
花輪はまる子が好きだ。
だから花輪がまる子に対する特別扱いは見ていて大層わかりやすいもので思わず応援したくなるほどひたむきだ。
それなのに今はそれがまったく感じられない。
自分とまる子が一緒のものを貰っている上に、レディ逹のためにと言ったあの言葉、、、。
花輪なら「さくらくんのために」と言ってもおかしくないのに。
もんもんと考えが広がっていき、たまえは思わず声を出してしまう。
「はっ、花輪くん」(たま)
「ん?なんだい?」(はな)
「あの、」(たま)
「はっなっわっくぅーん!」(みぎわ)
「Σ」(はな)
花輪の肩がびくりとはねる。
このクラスの中で誰よりもがんばっている女の子の声がし、たまえははっとする。
そしてこの言葉に助けられたと感じた。自分は今なんて言おうとした?
ーーーーこれだけなの?
違う違う違う!
顔を振って冷静に考える。
自分に貰ったものに難癖をつけるつもりもないし、このかわいらしいラッピングは花輪のセンスがでた素敵なものだと思う。
ただたまえが言いたかったのは、まる子にはもっとしてもいいんじゃないかということだった。
わかりやすい特別扱いでも気づかないのに、同じでは気づけという方が無理だ。
なので、(まるちゃんの分は)これだけなの?と聞きそうになったのだ。
でもどんな意図があるにせよ、失礼なものにかわりなく、言わなくてよかったと思う。
そもそも自分が口出しすることではないし、そんなことを言っては、せっかくたまえにまでチョコをくれた花輪は立場がない。
いつのまにかたまえの脳裏ではもう自分はタミーになっていて、
ごめんね。失礼な私を許してーーーーとアルプスの山の上で謝っていた。
そうしてたまえがトリップしてる間もみぎわの攻撃はとまらない。
「またさくらさんたちにだけプレゼント渡すなんてずるいわぁあ」
「もっ、、もちろん、みんなの分も用意してあるよ、ベイビー」
「ほんとぉ!私の分もあるのかしら!」
「ああ、もちろんだとも、、」
「うれしいわぁぁ!!」
「Σちょっ、だ、抱きつかないでくれたまえ!誰か助け、、」
ぎゅっと肩に絡み付かれ、花輪の顔色は悪くなる。
助けを求めようと周りを見回すが、
たまえは申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ていてるし、まる子に至ってはもうチョコを食べている。
「Σ(穂波くん!そんな顔をしてないで助けてくれたまえ!さくらくん!もう少し僕に興味を持ってくれたまえ!)」
「私もぉ、花輪くんに、チョコ持ってきたのよ。食べてくれるかしら?」
「きっ、気持ちだけいただいておくよっ!」
「やだぁ!遠慮なんてしなくていいのよ!」
「いや、、、あの、、そうだ僕のチョコは僕の机に置いてあるから、勝手に持っていってくれたまえ!では、僕は、、しっ、しつれい!」
「あぁーん!はなわくうんー」
乙女の叫びも虚しく、花輪は早々に教室を後にする。
照れ屋さんねぇと顔を赤くするみぎわは、るんるんと教室を出ていった。
たぶん追いかけていったのだろう、たまえは花輪に同情するしかない。
「いやぁ、、おいしかった」
「Σあれ!まるちゃんもう食べたの?」
「うん」
「あれ?そういや花輪くんは?」
「Σええっ、、?さっきみぎわさんから逃げるように出ていったけど」
「あれ?みぎわさんなんてきてたっけ?気づかなかったよ」
「、、、(まるちゃん、、そんなにチョコに夢中になってたなんて、、)」
「そんなことよりさぁ、たまちゃんも期待して食べたらいいよ。すっごいおいしいから」
「そ、、そだね」
ーーーーああ。花輪くんって不憫だなぁ。
たまえはもうその言葉しかでないのだった。
**
そして放課後。
いつものようにまる子はたまえと家に向かって歩いていた。
「そぉいやさぁ、藤木が前田さんにチョコ渡したんだって」
「ええっ?前田さんに?藤木って笹山さんが好きなんじゃないの?」
「そうそう。藤木、チョコ渡すときにかなり緊張してたみたいでさぁ、顔も見ずに受け取って下さいって言ったんだって。そしたら笹山さんの席の1つ後ろだったらしくてさぁ」
「ええっ!?じゃあ藤木は席を間違えたの?それって笹山さんも前田さんも席にいたってことでしょ?」
「そうなんだよ!アイツかなりのマヌケでしょ?2人とも座ってるのに場所を間違えるなんてさぁ」
「うん、、それはもうどうしようもないね」
「しかも前田さんも「なに?気が利くじゃん」とか言って受け取っちゃったから、間違いだって言えない上に笹山さんに「よかったね」って笑われるしで大変だったみたいだよ」
「へー、、そうなんだ。。藤木、とことんついてないね、、」
「ほんと、馬鹿だよねー」
あたしたちがトイレにいってる間にそんなことがあったんだってとまる子は笑う。
たまえは藤木が気の毒すぎて笑えないなと感じていた。
「でもさ、藤木といいひらばといい、、みんな結構逆チョコ渡してるんだね」
「そうだね。すごいよね」
「、、ったく、バレンタインってくだらねーよな」
馬鹿馬鹿しい、とでも言うように大野は呟いた。
割って入ってきた声にまる子とたまえが後ろを向くと、両手にチョコを抱えている大野と隣で笑っている杉山がいた。
「うわぁ。。。アンタすごいね。これ全部チョコでしょ?」(まる)
「うん、すごい」(たま)
「すごくねぇーよ」(おお)
「あれ?杉山くんは?」(まる)
「俺はこんなに貰ってねぇーよ」(すぎ)
「そうなんだ。貰っててもおかしくないのにね」(たま)
たまえの何気ない一言で杉山はどきりとする。
何度も言うがたまえは自分に関しては信じられないほど鈍いため深い意味はない。
「アンタねぇ、こんだけもらってくだらないとか言ってるとバチが当たるよ?」(まる)
「しょーがねーだろ。別にいらねーもん」(おお)
「え?じゃあまる子にくれる?」(まる)
「ああ、いいよ」(おお)
「やったぁー!」(まる)
「ま、まるちゃん悪いよ、」(たま)
「いいよ。持って帰ったところで食わねーから。穂波もほしいか?」(おお)
「やっ、私はいいよ、、」(たま)
「そっか。じゃあ全部さくらにやるよ」(おお)
「えっ?全部!?」(まる)
「落とすなよな」(すぎ)
どさっと渡されたチョコの山。
(ちなみに大きめの箱が多いため嵩張って見えるが、数えると5〜6個である。だが、すごいことに変わりはない)
まさか全てとは思っていなかったまる子はよろめきながら受けとる。
「ほんとにいいのこれ?」
「ああ。いいよ。俺甘いもん好きじゃねぇし」
「わーい。ありがとー」
「おう」
嬉しそうなまる子を見て、大野は優しく笑う。
彼のそんな表情は親友の杉山でさえ珍しいと思う。
そして杉山とたまえは大野のまる子への甘さをつくづく感じるのだった。
「でもよぉ、最近では逆チョコってのも流行ってるんだろ?」
「うん。らしいね。城ヶ崎さんが昨日言ってた」
「変なこと考えるやつもいるもんだな」
「まぁ、アンタにとっちゃくだらない話だろーね」
並んで歩くまる子と大野。
その後で必然的に隣同士になったたまえと杉山は2人を見ながら会話を交わす。
「杉山くんもさぁ、あんまり興味なさそうだよね」
「え?ああ、そうだな」
「そうだよね。朝ポッキーくれたでしょ?まるちゃんとひらばが逆チョコって言うからちょっとドキってしちゃったよ」
「えっ、あ、」
「あっ、大丈夫だよ。硬派な杉山くんがそんなことするわけないってわかってるから」
「Σ、、お、おお」
「だから安心してね」
「、、、ああ」
たまえの言葉にかなりのショックを受ける杉山。
前を歩いている大野とまる子は当然会話は聞こえていたので声をひそめて同情する。
「なぁ、穂波って案外すげえのな」
「あんな笑顔で杉山くんを傷つけるなんてたいしたもんだよ、まったく、、」
「杉山もさぁ、なんか惜しいんだよなぁ」
「そうなんだよ。いいとこまではいってるのに決め手にかけるんだよね」
「ああ。いいとこまではいってるんだけどなぁ、、」
ははと苦笑いをして、ちらりと様子を伺う。
白くなりかけている杉山といつも通りのたまえに言葉につまる2人。
取り合えず流れに任せてみようとまた前を向いた。
すると、2人がダンボにした耳にたまえの優しい声が入ってくる。
「あ、あのね」
「、、ん?」
「次の日曜に、お母さんとクッキー焼こうと思うんだ」
「え?ああ、、」
「今日のポッキーのお礼に月曜日持っていくよ」
「、、」
「あ、クッキー好きじゃなかった?」
「いや、、、嫌いじゃねえよ」
「よかったぁ」
展開の早さに微妙に遅れて反応する杉山。
理解してからは照れくさそうに鼻を触ってから、目を反らしていた。
そんな杉山の姿を見て大野とまる子は顔を見合わせて笑う。
青春だねぇ、とまる子がぼやいたところで、わかれ道に到着した。
大野と杉山とは家の方向が違うため、いつもここで別れるのだ。
「じゃあな、さくら、ほなみ」(おお)
「ばいばーい」(たま)
「気を付けて帰れよ」(すぎ)
「おーのくん、チョコありがとーねー」(まる)
「おー。いこうぜ、杉山!」(おお)
「ああ、じゃあなっ」(すぎ)
颯爽とかけていった男子たちを見送り、まる子とたまえはゆっくりと歩き出した。
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