恋するちょこれいと


今日は2月13日。。
明日のバレンタインに向けて男子も女子もそわそわしている。
いつもは平穏な3年4組も例外ではなかった。



「はー、、なんだろうね、バレンタインって」
「私たちには関係ないもんね」

教室に漂うバレンタインムードを感知したまる子とたまえは席につきながら興味なさそうにぼやく。
男子が妙に優しかったり、女子が妙によそよそしかったり。
むずかゆい空気に2人は青春だねぇとどこまでも他人事だった。


「でもさ、なんで女子からなんだろうね」
「そーだね。男子からでもいーのにね」
「だって損じゃん?なんで女子ばっかあげなきゃいけないのさ」
「ホワイトデーもバレンタインに貰った人に返すだけの日だしね」
「あーあ、どうせならあたしも男だったらよかったのになぁ」

うなだれるまる子に、
言うと思ったとたまえは苦笑いを浮かべる。
食に関してとくにお菓子に関しては小杉並みの執着心を見せることがしばしばあるまる子。
それが彼女らしいといえばそうなのだが。


「あらっ、男子じゃなくても貰えるわよ」
「城ヶ崎さん」

華やかなオーラを纏い、まる子逹の会話に入ってきた女の子。
にっこりと笑って、雑誌で仕入れただろう情報を話す。

「逆チョコがはやってるみたいよ?」
「逆チョコ?」
流行に疎いというかあまり興味もないまる子とたまえは首をかしげて聞き返す。
とくにまる子は(チョコを逆から読むとなんだっけ?)なんて見当外れな問題に悩んでいた。
そんな彼女逹に姫子は上品に笑い、続ける。

「逆チョコっていうのは、男子から女子に贈るチョコのことよ」
「え?男子から?」
「ええ。そうよ。だからバレンタインは女子だけがあげるものじゃないってこと」
「へー、、、たまちゃん知ってた?」
「ううん。はじめて聞いたよ」
「へいっ、ベイビーたち!何を話しているんだい?」
「あ、花輪くん」

自慢のヘアーを手で流しながら、さりげなくを装い会話に加わる男の子。
たまえと姫子は、まる子といると花輪に関わることが多いことに気づいていたため、(あ、やっぱり来た)と心の中で呟く。
彼とまる子以外さりげなくないということはわかりきったことである。


「花輪くんは逆チョコって知ってる?」(まる)
「逆チョコ?」(はな)
「バレンタインに男の子が女の子にチョコをあげることなんだってさ」(たま)
「へー、、アメリカみたいなことをするんだね」(はな)
「えっ?アメリカってそうなの?」(まる)
「そうだね。アメリカのバレンタインは男子から好きなレディに花束をあげることが多いのさ」(はな)
「チョコじゃないの?」(まる)
「チョコの場合もあるけどね。アクセサリーだったりメッセージカードだったりするんだよ。バレンタイン=チョコっていう感覚は日本だけなんだよ」(はな)
「へー」(まる)
「そうなのよ。それに外国ではバレンタインは恋人のたちの日って言って、プレゼントを交換しあう日でもあるみたいよ。どちらかがあげるじゃなくて、お互いにプレゼントしあうの」(ひめ)
「、、アンタたちよくそんなこと知ってるねぇ。あたしなんかつい最近、戸川先生の話でアメリカの首都がロンドンって知ったばかりなのに」(まる)
「、、まるちゃん、、アメリカの首都はワシントンだよ」(たま)
「ええっ!そうだっけ?」(まる)
「ロンドンはイギリスの首都よ、、」(ひめ)
「さくらくん、、」(はな)
「じょっ、じょーだんだよ、じょーだん!アハハハハッ」(まる)

困ったような目をする3人にまる子は恥ずかしさを飛ばすように豪快に笑う。
赤みを増した頬のせいで冗談ではなく彼女が真剣だったことは全員がわかっていた。
わかっているが、突っ込まないでいてあげるのはこのメンバーがまる子をとんでもなく可愛がっているからだった。


「とにかくっ、最近は、逆チョコが流行ってるってことよ!」(ひめ)
「そ、そうだね!」(たま)
「でも、ま、流行っててもあたしには縁がない話だよ」(まる)

はー、とため息をつき、窓の外を眺め哀愁を漂わせるまる子。
そんな彼女に姫子とたまえは苦笑いをする。

「、、さくらさんは貰えると思うわ」
「うん、、思う、、」

そして、ちらりと花輪に目をやる。
彼はいつのまにか自分の席についていて、いそいそと雑誌を広げていた。
表紙には、バレンタイン、チョコレート特集と書いてある。


「あの花輪くんを掌の上で転がすことができるのってさくらさんぐらいよね」
「うん、、本人まったく気づいてないけどね」
「というか、、どこから出したのかしら、あの本、、」
「机の中からでも不思議だよね、、」

まる子に聞こえないようにひそひそ話で会話する2人。
花輪のひたむきさに心の中でエールを送った。


「ふん!バレンタインなんて馬鹿馬鹿しい!」

そんな彼女たちに向けられた毒々しい言葉。
姫子はいち早く反応する。
整った眉毛をつり上げてすでに戦闘体制だ。


「ちょっと!永沢!そういう言い方はないんじゃないの!?」
「ふん!くだらないことをくだらないって言ってなにが悪いのさ!」
「わざわざ口に出して言うところが性格悪いのよ!」
「君にそんなこと言われたくないね!君みたいな野蛮な女は逆チョコなんて貰えるはずないね!」
「うるさいわね!アンタだってそんなんだからチョコ貰えないのよ!」
「だから僕はそんな馬鹿馬鹿しいことに興味ないっていってるだろ!」

がるるるると歯をくいしばって睨み会う2人。
まる子とたまえは呆気にとられながら(なんで城ヶ崎さんと永沢ってこんなに相性悪いんだろう)と考えていた。
そして、ふんっと2人が背を向けたところで、タイミングよくチャイムが鳴り、この嫌な空気は流れていったのだった。


**
まる子達がそんな話をしていたからなのか。
放課後には逆チョコなるものをほとんどの生徒が知っていて、その話題で持ちきりだった。
学校から帰る途中のこの2人も話の種にしていた。


「なぁ、逆チョコだってさ」
「ああ。何が流行るかわかんねぇもんだな」
「大野は誰にもやんねーのか?」
「俺がやるようにみえるか?」
「、、さくらにあげたら喜ぶんじゃねーの?」
「ばがやろっ!変なこというなよ!」

きゅっと帽子を深く被るのは大野が照れたときのくせだ。
わかりやすい態度をとるくせに絶対に認めようとしない。
素直じゃねえよなと杉山は苦笑いをする。

「そういう杉山は誰かにやるのかよ」
「え?」
「穂波にやらねーのかよ」
「ばかっ、からかうなよ」

ふいっと顔を背けて、鼻をさわる。
それは杉山が照れるときにする行為。
杉山もまた大野と一緒で恋心をはっきり認められるほどの余裕は持ち合わしていない。
似た者同士の2人は1番の親友でさえも恋の話をするのは苦手だった。


「、、、ところでよ、大野、逆チョコってさ、、、チョコだったらなんでもいいのか?」
「え、そうじゃねぇのか?」
「だよな」
「、、べつにそのまま渡したらいいんだよな?」
「えっ、そうだろ、、たぶん」

そんな会話をするのが精一杯の2人は互いに
(さくら/穂波に渡そうと思ってるのバレてるだろうなぁ)と心の中でため息をつくのだった。


「あー!おーのくん!すぎやまくん!」
「山田」

そんな2人のもとへ、あはははとかけてきたクラスメイト。
いつでも悩みのなさそうに笑う彼が今は少しばかり羨ましいと感じる。

「なんだよ、」(すぎ)
「蝶々だじょー!まだ2月なのに蝶々がいたじょー!きれいだなぁ!アハハハハ」(やま)
「、、そうかよ」(おお)
「2人とも、そっちに行ったから一緒にとっておくれよ!」(やま)
「はぁ?やだよ」(おお)
「自分でとれよ」(すぎ)
「とれないから、学校からずっと追いかけてきたんだじょっ」(やま)
「あれ?お前鞄は?」(おお)
「もってきてないじょー!ランドセルを持ちにいってたら、蝶々がどっかにいってしまうじゃないか!おーのくんはバカだなぁ」(やま)

本当の馬鹿に馬鹿と言われた大野は怒る気力もないぐらいの脱力感に襲われていた。
杉山も何て言ったらいいかわからず、大野の肩を静かに叩くのだった。


「ねっ、とにかく、つかまえておくれよ!」(やま)
「、、、ったく、しかたねーなぁ」(おお)
「、、はー、、お前つかまえたらちゃんとランドセル取りに戻れよ」(すぎ)
「わーい!ありがとうだじょー!」(やま)
なんだかんだで押しに弱い2人は山田の蝶々取りに付き合わされることになり、バレンタインの話はこれまでとなったのだった。



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